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釧路地方裁判所 昭和37年(ワ)119号 判決 1963年2月26日

北見市大通西二丁目一五番地

原告

北見バス株式会社

右代表者代表取締役

多田倍三

外五名

右原告六名訴訟代理人弁護士

柴田武

外五名

釧路市末広町一三丁目二番地

被告

阿寒バス株式会社

外一四名

右代表者代表取締役

森口二郎

右被告一五名訴訟代理人弁護士

泉功

外三名

右当事者間の昭和三七年(ワ)第一一九号新株発行無効確認等請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告らの被告阿寒バス株式会社を除くその余の被告らに対する訴を却下する。

原告らの被告阿寒バス株式会社に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立等

一  原告らの申立

別紙第一目録記載の株式の発行は無効であることを確認する。

被告阿寒バス株式会社は別紙第二目録記載の登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告らの答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者双方の主張

一、請求の原因

1、原告北見バス株式会社(以下原告会社という)は、被告阿寒バス株式会社(以下被告会社という)の株二一、一七九株を有する株主であり、その余の原告は、いずれも被告会社の株五〇〇株を有する株主である。

2、被告会社は、別表記載のとおり、わずか五ケ月の間に五回にわたつて新株を発行したが、その事情は次のとおりである。すなわち、原告会社は、昭和三六年五月二九日当時被告会社の代表取締役であつた伊藤保雄から被告会社の株一五、五三三株を買い受けたが、その後他の原告らに、そのうち五〇〇株あてを譲渡し原告らは、いずれも同年一一月二〇日その名義書換手続をした。

ところで、昭和三六年九月下旬被告会社の取締役であつた訴外森口二郎は、原告会社の右株式取得の事実を聞知し、同年一〇月六日被告会社の代表取締役に就任するや、当時被告会社の発行済株式総数が三〇、〇〇〇株であつたところから、他の取締役本山正、同今泉規子、同池田左男治らとともに、原告らの株式保有の割合を低下させると同時に、右森口一派の保有する株式数を過半数以上に引きあげ、もつて株主総会を制する絶対多数を確保し被告会社の経営権を保持する目的で、別表記載のとおり、五回にわたつて違法な新株の発行を行なつたものである。そのうち、本訴の対象である第四回および第五回の新株発行について、その無効事由を詳述する。すなわち、右森口らは、前示目的達成のため、公募に名をかり、その実公募手続をとらないで秘密のうちに、第四回の新株発行については、被告吉田利和、同長内丑右衛門、同館孝、同三鹿孝之、訴外木上喜久治、同中田公治、同加藤信吉らと通謀し、第五回の新株発行については、右木上、中田、加藤らと通謀し、それぞれ特定の第三者である別紙第一目録記載の者に割りあて、引き受けさせたものである。このような目的、手続による新株の発行は、著しく不公正な方法によるものといわざるをえないし、また、右第四回および第五回の新株発行は、いずれも特定の第三者に対して新株引受権を付与したものであるから、当然商法第二八〇条の二により、いわゆる株主総会の特別決議を要するにかかわらず、これなくして発行されたものである。従つて、以上いずれの理由によつても本件第四回および第五回の新株発行は無効というべきであるから、被告会社および右新株の株主であるその余の被告に対し、本請求に及んだ。

二、被告らの答弁

1、右一、1、の事実は認める。同2のうち、被告会社が原告主張のように五回にわたつて新株を発行したこと、原告らがその主張の日に各名義書換をしたこと、訴外森口二郎が原告主張の日に被告会社の代表取締役となつたこと、その当時被告会社の発行済株式の総数が原告主張のとおりであつたことは、いずれもこれを認めるが、原告らの株式取得の経過は知らない。その余の事実は否認する。

2、被告会社は、第四回および第五回の新株発行にあたつては、被告会社が地方的同族会社であつて、その株式が上場されていないところから、いわゆる自己募集の方法をとつたに過ぎず、従つて、その募集については、新聞公告その他によつて不特定多数の者に知らせる必要はないし、いわゆる割当自由の原則によつて募集に応ずる者は何人であつても差支えないわけであるから、その新株発行は、不公正な方法とはいえない。

3、かりに、本件第四回および第五回の新株発行が特定の第三者に新株引受権を付与したものであつたとしても、そのために要する株主総会の特別決議は、被告会社内部の意思決定の問題に過ぎず、これを欠くからといつて新株の発行を無効とすることは、株式が有価証券として流通を予定されている以上、著しく取引の安全を害するものといわなければならない。従つて、原告らの主張は、理由がないものというべきである。

理由

第一、被告会社を除くその余の被告(以下被告らと称する)に対する訴について

職権をもつて考えてみるのに、株主または取締役が発行された新株全体の無効を主張し、当該会社を相手方として訴を提起した場合において、右訴につき、原告勝訴の判決が確定したときは、商法第二八〇条の一六、第一〇九条および第二八〇条の一七によれば、新株は将来に向つてその効力を失うとともに、その判決は第三者に対しても効力を有することは明らかである。してみると、被告らが、本件新株の株主であり、その無効を争つていても、原告らが被告会社に対する訴とは別個に、被告らに対する関係で新株発行の無効を訴求する必要はないのみならず、かかる訴は許されないものと解すべく、従つて、被告らについては、その適格を欠くものといわなければならないから、右被告らに対する本件訴はこれを却下することとする。

第二、被告会社に対する請求について

別表記載の第四回および第五回の新株発行がなされたことは当事者間に争いがない。よつて、以下原告ら主張の無効原因について判断する。

まず、原告らは、右第四回および第五回の新株発行がいずれも著しく不公正な方法によるものであり、従つて、無効であると主張する。しかし、たとい原告ら主張のように、被告会社の代表取締役森口二郎らが株主総会における多数者の地位を維持もしくは獲得するため、その権限を濫用して自己に味方する者のみに新株を割りあて、引き受けさせたとしても、株主において、右新株の発行前その差止を請求する権利等を有することがあるのは格別、一たん発行された以上、取引の安全の重要性にかんがみると、右理由をもつてしては新株の発行を無効とすべきいわれはない。この点に関する原告らの主張は、理由がない。

次に、原告らは、右各新株の発行は、特定の第三者に新株引受権を付与したものであり、株主総会のこれに関する特別決議を欠くので無効である旨主張する。しかし、被告会社の定款に別段の定めあることの主張のない本件においては、新株発行の権限は取締役会に属し、株主総会の特別決議による授権は、右新株発行の権限の濫用を防止すべき対内的な制約としての意義を有するに過ぎないものというべきである。そうしてみると右決議の欠缺は、新株発行の効力に影響を及ぼすものということはできない。

以上の次第であるから、原告らの被告会社に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないので、これを棄却することとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草場良八 裁判官 川崎○徳 裁判官 梶本俊明)

<以下省略>

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